「2人の午後」

時は西暦2002年、8月9日。戦況は拮抗していた。
日に日に、幻獣に押されて行く戦況。


それは日常生活にもはっきりと現れていた。



「萌りーん、今日も残業ー?」
救急箱を抱えて、整備員詰所に向かう石津萌を呼びとめたのは小隊1の問題児(笑)、新井木だった。

「・・生活・・環境・・の悪化は・・みんなにわるい・・もの」

そう言って萌は顔を伏せた。
「・・でもさー・・最近頑張りすぎだよー。萌りん一人で頑張りすぎー!、僕だって手伝うのにー!」

そう言って頬を膨らませる新井木。1番の親友に頼りにされていないことが余程ご不満の様子。

「・・で・・も、いさ・・みちゃんも・・整備・・でいそが・・しいし・・」

「それはそうだけど・・さあ・・」
実際士魂号の整備は毎日徹夜だらけで、やっとこさ運営されている始末。
新井木が担当する1番機の損傷がもっとも大きいということも関係しているのだが・・。

「萌りんさー・・一人で全部抱え込む癖あるから、僕ほっとけないんだよねー。 確かに今とーーーっても忙しいけど、僕でも手伝えることあったらいつでも頼ってよー?」

そういって新井木は笑った。満面の笑みを浮かべて萌を見つめている。

「・・ええ、わかっ・・たわ。そのとき・・はおねがいね・・?」

そう言って萌は階段を降りていった。



場所は変わって、正面グランド前。

来須は若宮と共にスカウトの仕事を片付けていた。

「おーっし、もう1頑張りしたら休憩しようぜー、来須ー」
「・・ああ。」
来須はいつものように若宮の言葉に対し、反論を加えることなく頷いた。
ふと、グランド外れに目をやると石津が整備員詰所に向かうところを来須は目撃した。
やはり連日の徹夜がたたってきているのか、なんだか顔に生気がなく今にも倒れそうだ。


「・・・・若宮。」
石津の様子が普段とかなり違うことに焦りを感じた来須は、珍しく若宮に意見した。
「・・すまん、用事ができた。あとは・・頼む!」
そう言い残すと若宮の返事も待たず、もの凄い早さで校舎に向かって走っていった。

「うあ?、後を頼むっておい、来須ー!、急にどうしたんだよー?」
来須の突然の豹変に若宮は首をかしげるばかりだった。


急いで整備員詰所に駆け寄った来須はそっと、中の様子を伺った。
たとえ石津の具合が悪そうであっても、仕事中の可能性もあるため邪魔しないように配慮したのだ。


そっと中の様子を伺うと、そこには机に向かって仕事をしている石津が見えた。

(心配するほどでもなかったか・・?)
そう思い直し、若宮の元に戻ろうとしたその時、

仕事をしているように見えた石津がかすかに寝息を立てて、
机に突っ伏しているではないか。


「・・・・。」
来須は何も言わずそっと石津を抱きかかえ、ベッドに運んでやった。

「・・・後は任せろ」



やがて3時間ほど経ったであろうか。
石津はベッドの上でゆっくり目を開いた。

何故自分がベッドに寝させられているのか、判断がつかなかったが。

ようやく頭が反応に追い付いてきた時、彼女の視界に映ったのは必死に整備員詰所で、
衛生官の仕事を片付ける来須の姿だった。

「・・くる・・すくん?」

来須の邪魔をしまいと小さな声で石津は呼びかけた。

「・・起きたか、具合はどうだ?」
来須の問いかけに石津は一瞬驚いたが、すぐに微笑を浮かべてこう言った。

「・・え・・?あ、すこし・・ら・・くになった・・わ」

微笑といっても、かなり仲の良い人にしか分からないほどの微笑みだったが、来須には伝わったようだ。

「・・礼はいい。俺が勝手にやったことだ。」
照れくさいのか、帽子を深く被りながら来須はそう言った。
そしてしばしの沈黙・・。


その沈黙を破ったのは、若宮と新井木だった。
「おー、来須!ここにいたかー。いきなりどうしっ(ムガッ)」
言いかけようとした若宮を新井木が慌てて口を抑えた。

(こーの、筋肉ばかー!、状況を察しないさいよー!)
(状況って・・?)
(あー、、もう鈍感なんだからー!!)

新井木は来須と石津に分からないほどの小さい声で若宮にそう言った。
その様子を怪訝に思ったのか、石津がこちらを見た。

「・・いさ・・みちゃん?」
「あーあー・・そのゴホンッ!、お邪魔虫は退散しますかー!。」
そう言ってまだ首を傾げたままの若宮の耳を引っ張って整備員詰所を出ていった。


どたばた劇が去ったあと、重い口を開いたのは来須だった。

「・・お前一人で全てを抱え込むな。俺はいつもお前と共にある・・忘れるな。」
「・・ありが・・とう、来須く・・ん」
「・・もう少し休め。今日は・・俺がやる。」
「・・うん・・。」


2人の午後はこうしてゆっくりと過ぎていったとさ・・。