男達の挽歌
時は西暦2002年、9月19日。

遠坂圭吾の元に、とある1通の手紙が届いた。
「お前の1番大事な物を預かっている。返してほしくば13時ジャストに以下の地図の場所に来い。」
同封されている地図は、あからさまにたどたどしい字で書かれていた。明かな挑発である。



「・・・こんな場所に一体何があるというのでしょう・・。」
遠坂は首を傾げつつも、自分の大事な物(?)の為に急いだ。




「・・ここですか。」
子一時間ほどして遠坂は、約束の場所に到着。
現在12時55分。ギリギリセーフのようだ。

(ふう・・しかしここまで来るのは大変でしたねえ。
まさかあんなことがあるとは・・。)

一人そんなことを考えつつ、目前の鉄扉を開けようとする遠坂。
軽く錆びついてはいたが、それほど問題もなく開けることに成功。鍵はされていない。
どうやら随分前にこの工場は放置されて日が経っているようだ。

「・・来たか、意外に早かったな。」
工場に入ると、暗がりではっきり確認できないが、どこかで聞いた声が聞こえる。
「・・姿を現したらどうですか、一方的なのは失礼だと思いますが。」

その瞬間、カチリと無機質な何かスイッチの入る音が聞こえたかとおもえば、一斉に工場内の照明が入った。
突然暗いところから、明るい所に放り出された状態になった為、遠坂はあまりの眩しさに目を覆った。

数秒後、ようやく目が追いついてきた時には、遠坂は自分の目を疑った。

「・・貴方は・・・。」

そこに立っていたのは、同じクラスで、幻獣共生派でもある、狩谷夏樹だったのだ。

「・・こんな所まで呼び出して・・一体何をするつもりですか・・。」

「・・ふふ。」
遠坂の問いに狩谷は答えず、意味深な笑みを浮かべるだけだった。
「何だ、君のその無様な格好は・・・。まるでここに来るまでに、
擦れ違った全ての人々にイガクリを投げつけられた様だな。」
「やはり貴方の仕業だったんですね・・・。」

数分前、遠坂は何故か擦れ違う人に、笑顔でイガクリを投げつけられその擦り傷で
もうボロボロになっていた。
何気に皆に全力で投げつけられた模様。


「痛かったか?、ふふ・・。」
「なんか泣きそうになりましたよ・・。」

「それはそうと、聞かせてもらいましょうか・・。
一体何を人質にしたのか・・。」
「じゃあ3択にしてみよう・・。1番・・あー・・・。
幼い頃生き別れた・・・義理の兄弟の写真・・。

「2番・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・ガラカブ定食1日タダ券。」
「3番・・・・・・・・・・・・・・・」

「3番!。」
「ピンポンピンポーン!!
「やるな・・まだ途中なのに。」
「1番も2番も何か考えながら喋っていたようなのでね・・。」
「ふふ、たいした洞察力だ・・・といいたい所だが」

狩谷は側に置いてある大きなツボの蓋を開けた。
「そ、それは・・・!。」
ツボにぎっしり詰められていたのは、間違うごとなき、
黄色い物体、ウニだった。
「そう・・お前の大ッ嫌いなウニだ!!。
お前が大量に投げつけられたのはウニのカラだったんだよお!。」
ツボを担ぎながら、中身を遠坂に見せつける狩谷。

「く・・・来るな、来ないで!!。」
「ウニは大人の味!!この味が解らんお前は子供!!。」
「わ、私は大人です!!。」
狩谷は遠坂目掛け、物体を投げつけた。

ドサッ・・

(ああ・・か、紙飛行機!!。)
狩谷が投げつけたのは、まぎれもなく紙飛行機だった。
すりすりすりすりすりすりすり・・・・。

遠坂はパブロフの犬よろしく、紙飛行機におもいきり頬擦りを始めた。
その様子を狩谷はほくそ笑みながら、叫ぶ。
「ほーら、子供だあー!。」
(うあああ・・止められません・・・早く早く早く!)
すりすりすりすりすりすりすり・・・・。

「はい、あーん!。」
「あーん!!。」

ぱくっ。
誘われるままにウニを食べる遠坂。
(・・・あ、あれ、意外にへっちゃらだ・・・・
いやむしろ美味い!!・・・これはいける、いけるぞお!)
狩谷からツボを奪って、ウニをがっつく遠坂。

その様子を暖かい目で見つめる狩谷。


「また一つ・・大人になったな。」
「ん!?。」
振り返ると、狩谷は大きなバースデーケーキを持っていた。
「ハッピバースディーツーユ〜〜〜〜♪、ハッピバースディツーユ〜〜〜〜〜♪
ハッピバースディディア圭吾〜〜〜♪。」

おもむろに歌い始める狩谷。
その内容にはっとする遠坂
(・・そういえば今日は・・私の誕生日でしたね・・・)
「♪ハッピバースデ〜〜〜ツーユ〜〜〜〜〜♪。」

狩谷は歌い終えると、懐からマッチを取り出し、ロウソクに火を付ける。
「さあ・・・早く消したまえ。」
しかし、遠坂の口にはウニがぎっしりつまっていて、
返事をすることができない。
「んん!!んんんん!!。」
「何だ?消さないのか?」

そして返事を待つことなく、ロウソクの火を吹き消す狩谷。


1番美味しい場面を奪われた遠坂は顔面蒼白になった。




・・・そして血で血を争う誕生日になったとか・・。
そんな男達の挽歌(違)。