ダブルデート
日曜日の校門の前と言ったら、5121小隊の面々のデートの待ち合わせに使われる場所である。
今日もまた、複数の人影が校門の前で恋人が来るのを、待ちわびていた。
9時。
ほとんどの学兵たちは、待ち合わせていたパートナーと手を取り合って、デート先へと足取りも軽く、連れ立って行った。
しかし、この二人だけは、校門の前に立ったままであった。
一人は、芝村 舞。もう一人は、石津 萌であった。二人は、両極端な表情のまま、校門の前に立っていた。
怒りを露わにして仁王立ちしてるのが舞、少し首をかしげたまま、ふうわりと微笑んでいるのが萌。
お互い、精一杯におめかしをして、立っている。
一体、如何したのだろうか?
「遅い!遅い!!まだ来ないのか!!」」
「落ち・・・着いて・・・舞・・・。」
「落ち着いていられるものか!!」
「・・・もうすぐ・・・来ると・・・思うわ。」
イライラと辺りをうろつき回る舞を見て、萌が諭すように言った。
「・・・私のカダヤが遅刻しているのだぞ!!」
「大、丈夫・・・今・・・銀河が、迎えに・・・行っているわ・・・。」
どうやら、舞の恋人が遅刻しているらしい。
つい、感情的になってしまった舞は、羞恥の色に染まった顔を俯かせる。
その舞に何と声を書けたら良いかわからず、萌は少し困った表情をしていた。
萌は来須と一緒に暮らしているし、彼が遅刻をした所など見た事もない。
待っている身になった事がないのに、声をかけられるはずもない。
と、遠くの方から、走ってくる人影がある。ソレも二つ。
安心したように萌が、舞に声をかける。
「あ、来たわ・・・。」
「・・・っ!」
その瞬間、舞は俯いていた顔を上げて、人影の方に怒鳴り声を上げた。
「デェトの約束に遅刻するとは、何事だ!!」
「ま、舞・・・。」
怒った舞の前で焦ったように、オロオロとしているのは、若宮だった。
ちなみに、若宮はスーツ姿だった。普通の学生は、デェトへ行く時に、スーツを着用するだろうか?
しかも、今日4人が行く予定なのは、映画館である。誰が考えても、スーツを着用する必然性はない。
が、誰もそのことを指摘する者はいなかった。
一方、膠着状態の舞と若宮の横では、来須と萌が、
「・・・おかえり・・・なさい・・・。」
「遅れた、すまん。」
「そんなに・・・遅れて、ないわ・・・・。」
と、静かに会話をしていた。
「でも・・・あの二人大丈夫なのか?」
「大、丈夫・・・。だって、舞・・・若宮君のこと、大好き・・・だもの・・・。」
「そうか・・・。」
「ええ、だから・・・待って・・・ましょ・・・。」
「ああ。」
と、来須と萌は、そっと若宮と舞を伺い見る。若宮と舞は、来須と萌の視線に気付くことなく、話を続けていた。
「どうして遅れた・・・。」
「す、すまん!!こ、コレを選ぶのに時間がかかってしまって・・・。」
と、舞に差し出されたのは、一本の真っ赤なバラの花。
「女性と、で、デェトをする時には、花が贈るのが常識だと言われて・・・。」
「誰にだ?」
「瀬戸口と遠坂の二人に・・・。」
((余計なことを・・・。))
来須と萌は、同時に顔を見合わせて溜息を吐いた。
明日、喧嘩が2件、発生し、整備員詰所には、二人の怪我人が運び込まれることは、必至であろう。
「それで遅刻したのか?」
「・・・す、すまん!!」
ドガッ
グラリと、若宮がよろめく。舞が拳で、若宮を殴ったからだ。
「そんなモノを欲しいと私が言ったか?」
「いや・・・。でも、喜んで欲しかったから・・・。」
「・・・っ!!」
その言葉に、顔を真っ赤にさせた舞は、
「次のデェトには、絶対に遅刻するな!!」
と言い放った。そして、更に紅くなった顔を俯かせて、
「それと・・・花はありがたく受け取っておく・・・あ、ありがとう・・・。」
と、恥ずかしそうに言った。その舞の言葉に、若宮は、顔を輝かせて答えた。
「あ、ああ!任せておけ!!」
ようやくケリがついたらしい二人に、来須と萌が声をかける。
「そろそろ、いくか。」
「次の・・・上映、時間・・・には・・・間に合い・・・そうね。」
その言葉に、若宮と舞は軽く頷き、歩き始めた。
来須と萌は、仲良く手を繋いでいる。その光景を見た舞が、そっと若宮に、
「わ・・我等も・・・。」
手を繋がないか?と、言いかけた舞の手にそっと若宮の手が、重ねられる。
「・・・・。」
若宮と舞も前の二人に倣うように、手を繋ぎ歩いていった。互いに顔を紅潮させたまま。
映画館では、戦意高揚映画とか言う、どうでもいいような映画をやっている。
もっとも、そんなものが目当てではなくなった二組のカップル。
なので、映画など見てもいない。
来須と萌は、体を寄り添わせ、静かに目を瞑ったまま、互いを深く感じていた。
若宮と舞は、上映中の暗がりの中でキスをして、興奮しすぎた若宮が倒れると言う体たらく。
・・・後日。
舞と萌は、新井木やヨーコから映画の内容を聞かれた時、全く答えられず、原の含み笑いに恐怖したのだった。
来須と若宮は、何故か善行と速水から笑顔で攻撃を受け、いつもの倍の仕事を課せられてしまっていた。
ついでに、怪我をした瀬戸口と遠坂は、壬生屋の提案によって、謹慎処分に処せられた。
5121小隊は、今日も平和です、ごく一部を除いて。
終幕