「絢爛なる者」
 
第壱話:運命の輪

 
 
 
1945年
 
第2次世界大戦は意外な形で終焉を迎えた。
 
『黒い月』の出現。
 
それに続く、人類の天敵の出現である。
 
 
人類の敵、これを幻獣という。
 
確固たる目的も理由もなく、ただ人を狩る、人類の天敵。
 
人類は、存続のために天敵と戦うことを余儀なくされた。
 
それから50年。戦いはまだ続いている。
 
 
1997年
 
幻獣と戦い続ける人類は、
 
劣勢のあまりユーラシアから撤退するに至っていた。
 
幻獣軍は九州西部から日本へ上陸。
 
 
1998年
 
人類は幻獣軍に記録的な惨敗を喫す。
 
事態を憂えた日本国首脳部は、
 
1999年に二つの法案を可決し、起死回生をはからんとする。
 
ひとつは、幻獣の本州上陸を阻止する為の拠点、熊本要塞の戦力増強。
 
もうひとつは、14歳から17歳までの少年兵の強制召集であった。
 
 
 
この物語は、その子供達の一人が主人公である。
 
速水厚志 1984年生まれの15歳の少年。
 
特別な能力があるわけでもなければ、勇者でもない。
 
高機動幻想 ガンパレードマーチ
 
この物語は、
 
この凡庸な少年の目を通して描かれる戦争である。



 
 
1999年3月4日。2000年まであと300わずかとなったある日。
一人の少年が九州は熊本、尚敬高校のバス停前に降り立った。
 
 
「貴方が速水厚志さんですか?」
 
呼ばれた声に振りかえるとそこには、一人の女性が立っていた。
 
「えっと説明が遅れましたね。私は芳野春香、貴方の赴任先である尚敬高校で国語を教えています。熊本には慣れましたか?。」
僕が言葉に詰まっていると、彼女は構わず言葉を続けた。
「正直慣れるといっても、幻獣がそこらに頻繁に出現してますから関係なかったですね・・。」
彼女はそう言うと笑った。
 
「それにしても大変ですよね。今の時代に召集令だなんて・・。」
 
彼女の言葉に対し、僕はこう答えた。
 
「しょうがないですよ、それが戦争ですから。それに・・戦車兵なら戦死率が低いそうじゃないですか。ある意味そこに懸けてるんですよ。」
僕の言葉に一瞬彼女は驚いたような顔をしたが、すぐに気を取りなおした。
「・・えっと、それでは校舎に案内します。ついて来てください。」
その後僕は、数分間芳野先生から説明を受けた。

不思議なことに、どれも僕にとって真新しく写ることはなかった。


今は戦争中なのだ、何時死ぬかもわからぬ者にとってどうでも良いことなのだと・・・。






説明を受け終えて教室に向かう際、廊下で一人の少女と擦れ違った。
その少女は黒髪のポニーテールを何処にでもありそうな白いゴムで結って腕を組み、一点を睨み付けながら
仁王立ちをしていた。あまりに場違いなその姿に、僕は首を傾げた。
(誰だろう・・、同じ制服のようだけど・・。)

僕の視線に気がついたのか、その少女は歩み寄って来たではないか。・・なんだか怒ってるみたいだ。
僕のすぐ近くまで来たその少女は何も言わず、只僕を睨み付ける・・。
その刺々しい視線に、たまらず僕は口を開いた。

「お、おはよう・・。」
なんとか腹の底から搾り出すようにして挨拶すると、さも当たり前のように彼女はこう言った。

「芝村に挨拶はない、覚えておくことだ。」

そう言い終わると、彼女は独り教室へ歩いて行こうとした。

「ま、待ってよ。えっと芝村・・さんだっけ。僕も行くよ!」
「馴れ馴れしく呼ぶでない。我は芝村、本来であればこのような学校生活などに興味はないのだが、
対等になるためにはこのような知識も必要だと言うので仕方なく・・。」
彼女が喋り終わる前にもチャイムが鳴り始めた。
「ほら、時間ないし急ごう!。」
「こ、こら人の話は最後まで聞くものだ、待てっ!」






チャイムが鳴り終るのとほぼ同時に滑り込む形で、僕らは教室に着いた。
教室に入るとそこには、短銃を携えたパンクロック調を地で行く女性と、二人の生徒が着席していた。
「おう、来たか。今日は初日だからぺナルティは無しだ。適当に座れや。」

僕と芝村とかいうその少女は促されるまま、周辺の席に着席した。
近くにはゴーグルを掛けた少年と巫女装束に身を包んだ少女が座っていた。

「おっす、オラ本田!。お前らをこれから一人前のサムライにしていく鬼教官だ。よろしく!」
そう言い終わると、本田は威勢良く笑った。
彼女的には決まったと思ってるのだろうが、それは大きな間違いだと言いたくなった。
だが初日から身体に穴が開くのは嫌だったので黙っておくことにした。


「さあーって、楽しい楽しい授業を始める前に自己紹介でもやっとくかぁ!!、なぁおい!。
まずは・・お前さんから行こうか、少年。」
本田は僕の隣に座っていた、ゴーグルを掛けた少年にそう言った。

「おっす、俺の名前は滝川陽平。たきがわようへいってんだ。よろしく!。」

「壬生屋未央と申します・・。ふつつかものではありますが皆さんよろしくお願いします。」

「えっと・・速水厚志です。特技は・・特にありません。よろしくお願いします。」

「舞だ。芝村をやっている。・・・以上だ。」


「うっし、各人自己紹介が終ったな。それじゃあ授業を始めるぞ。いっとくが俺の授業にノートなぞ 要らん。
戦争じゃノートを見てる暇なぞないから、お前等の頭にしっかり刻み込めよ?。えーそもそも・・・・」



僕の戦車兵の卵としての日々はこうして幕を開けた。奇妙な仲間と共に・・・。


第壱話 完


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