「奇跡のカケラ」
 
第一回:出会い、そして・・。
 
若宮康光。5121小隊所属。階級は十翼長。
彼は素晴らしき戦車随伴兵(スカウト)である。しかしそれはあくまで表向きの姿。
彼には裏のもう1つの仕事があった。それは・・。
 
          「フードファイター」
 
彼は以前にもよく大食い選手権等に出場し、幾多の賞金を欲しいままにしてきた。
しかし、ある事件を境にその力を人助けに使うため、一人孤独な戦いを繰り広げている。
さてまずはその事件のことを話そうか・・。
 
それは戦争が休戦期に入り、一時的に私的な時間が取れる時のことであった。
裏マーケットからの帰り、若宮は一人の女性がタチの悪いごろつきどもに囲まれているのを目撃した。
 
「よお、ねえちゃん。金貸してくんねえかなあ?。俺たちちょーっと金欠気味でさあ。」
「な、なんですか。貴方たちは!!。警察呼びますよ!!。」
「へっ、サツが怖くてチンピラやれるかっつーの。おら!!出すのか出さねえのかハッキリしな!!。」
「貴方がたに払うお金など1銭もありませんわ!!。そこをおどきなさい!!。」
「ほお、気の強いねえさんだ・・。だがいつまでそうしていられるかな?」
「な、何をする気・・?。」
「知れたことよ、こうするのさ。」
その瞬間、女性は羽交い締めにされた。
「へへ、早く出したほうがおめえさんのためだと思うがね。」
「くっ・・。」
 
すると後方で大きな音が聞こえた。
「うん?、なんだ?」
「おい、貴様。その人を離せ。」
振りかえると、若宮がごろつきどもの首を掴んで捻り上げようとしていた。
「早くしたほうがこいつらの為だと思うが。」
そう言って若宮は掴んだ力を強くした。
「あ、アニキ!!、こいつやばいっすよ!!。」
「ほお、なかなかやるじゃねえか、てめえ。名前は?」
「ふっ、貴様等に名乗るには勿体ないね。」
「上等じゃねえか。おい、てめえらやっちまいな!!。」
「う、うっす!!。」
「話しても分かる連中ではないか・・。ならば仕方が無いな。」
そう言うと若宮はまず掴んでいた男を軽く3メートルほど投げ飛ばすと、ファイティングポーズを取った。
「おらあ!!。」
チンピラが若宮目掛けて拳を放ってきたが、若宮は避けることなくその拳を受け止めて、そのまま捻り上げた。
「い、いてええ!!。」
捻り上げられたチンピラはそのまま地面を転がるようにのた打ち回った。
「ほお、一応神経は通っているようだな。さーってお次はどいつだい?。」
「うらああ!!。」
今度は後頭部目掛けて蹴りを放ってきた。
「ふっ、甘い!!。」
若宮はサイドステップでその攻撃をかわし、奴の体を掴むとそのままジャーマンスープレックスに持っていった。
「いてえ、首がいてええよ!!。」
「あとひいふうみい・・。3人か。面倒くせえ、1度にこい!!。」
若宮は一喝した。チンピラは戦意喪失したようだ。足が震えている。
「く、くそ。覚えてやがれ!!。」
「あ、アニキ待ってくれよう!!。」
リーダー格と思われる男が逃げ出したことにより、全てのごろつきどもが後を追うようにして逃げ出して行った。
 
 
「ふう、終わったか。まあ軽いウオーミングアップにもなりゃしねえな。」
若宮が一人肩をまわしながらそんなことをつぶやいていると、
「あ、あの。助かりました。」
「は?。ああさっきのことなら気にせんでください。いい食後の運動になりましたし。」
「いいえ、そんな。貴方が通りかかってくれなかったら私・・今頃どうなっていたか。」
「まあああ言う輩もいることですし、女性の一人歩きは感心しませんな。」
「そうですね、これからは気をつけますわ。あ、そうだわ。お礼にお茶でもいかがです?。
私、すぐそこで孤児院をやっているんです。」
「いえ、お礼なんてそんな・・。当然のことをしたまでですから・・。」
「そうおっしゃらずに是非!!。色々伺いたいこともありますし。」
「それならば、お言葉に甘えるとしますか。」
「良かった!!、じゃあついてきてください。っと失礼しました。自分で名乗ってませんでしたね。私、日向野沙紀っていいます。沙紀で構いませんから。」
「おっと、これはご丁寧に。私は若宮康光といいます。どうぞよろしく。」
「それじゃ、行きましょう!!。」
 
 
それから若宮は、郊外にぽつんと立っている古い建物に案内された。
「ここです、狭いですけど・・。」
「いえいえ、そんなことはないですよ。よく手入れされているじゃないですか」
周囲には花壇があり、花もたくさん植えられている。そのなかでも大きな紫陽花の花がひときわ目立っていた。
 
「どうぞ、そこの椅子にお掛けになってください。すぐ用意しますから・・。」
「はあ、すみませんね。」
沙紀はそう言って奥の台所に入っていった。
若宮はしばらく周囲を観察することにした。
(しかし、随分と古い建物だ・・。沙紀さんは一人でここを切り盛りしているのだろうか・・。まだ若そうに見えたが大変だろうな・・。)
若宮がそんなことを考えていると、一人の孤児が入ってきた。まだ年端もいかない少女のようだ。
「せんせい!!、せんせいどこー?。あれ?おにいちゃん誰?。」
「俺か?。俺はここのせんせいの命の恩人さ。」
「おんじん?みか、難しいことわかんなーい。ねえ、せんせいどこか分かる?。」
「せんせい?ああ沙紀さんのことか。そこの奥に入っていったぞ。」
「そうなんだ、じゃあ行ってみる!!。ありがとね!!。」
そういうとその少女は走って行ってしまった。
(あんなに小さい子までいるのか・・。さぞかし世話は大変なんだろうな・・。)
 
すると、奥から沙紀がさっきの少女と共に出てきた。
「すみません、お待たせして。」
「いえ、大丈夫ですよ。どうせ今日は暇ですしね。」
沙紀はダージリンティーの入ったカップを静かにテーブルに置いた。
「どうぞ、お砂糖はいるかしら?。」
「いえ、このままで構いませんよ。」
そう若宮が言い終わる前に、先ほどの少女も同じテーブルの椅子に座っていた。
「おにいちゃん、ありがと!!。せんせい見つかったよ!!。」
「あら美香ちゃん。お昼寝の時間じゃなかったかしら?。」
「うーん、なんか寝つけなくて起きちゃった。ねえねえ、ご本読んで!!せんせい!!。」
「あら、ちょっと待ってくれる?。先生ねえ、このお兄さんとお話があるんだけどなあ。」
「ぶー、今じゃなきゃだめなのーー!!。」
「しょうの無い子ねえ・・。」
「はは、俺なら構いませんよ。なんかさっきも探していたようですし、読んであげてください。」
「そうですか・・すみません。ちょっと失礼しますね。」
そういうと沙紀は一冊の絵本を持ってきた。題名は「ねこがみさま、ありがとう」と書いてある。
「むかしむかし、ねこのかみさまには たくさんのにんげんのおともだちがいました。
ねこのかみさまは にんげんとともにきょうわこくとてーこくをまもり、てーこくがほろびるそのさいごをみとどけたのちとものベルトをくびわにして、たびにでました。
 
にんげんにわるさをする ねずみをこらしめながら、ふねにのってひがしへひがしへ
 
なんびゃくねんもたびを続けて、さいごにたどりついたそのばしょのなまえは ひのくに。
 
ねずみにとりついた コロリというびょうきになたまされていたひとびとは、ねこかみさまをいこくのふねからもらいうけます。
ねこかみさまはおきゃくさまとしてだいじにされました。
たどりついてより60ねんのあと、あかいふくをもらいました。
ねこかみさまはひのくにのひとにつたえます。
 
このひのいろのふくにかけて、あおぞらがおちるまで、ちがさけうみがぼくをのみこむまで、ぼくはこのくにをまもりましょう。
 
やくそくははたされました。
それからねこかみたちはむかしもいまもひのくにのよるをまもるのです。
おしまい。」
 
「ふええ、ねこさんすごいねえ!!。」
美香は大きな声でそう言った。
「ねこさんはいまもまもっているのかな?。」
「ええ、あなたがそうおもっているかぎりはね・・」
そういうと沙紀は微笑んだ。美香もつられて笑った。
「さっ、今度はちゃんとおねんねしなさいね。」
「うーん、わかった!!。ちゃんとねる!!。」
そういうと美香は部屋から飛び出して行った。
 
 
「すみません、絵本だなんて・・。退屈でしたでしょう?。」
沙紀はそう若宮に話しかけた。
「いえ、たまにはそういうものもいいもんですよ。結構聞きほれてしまいました。」
「ふふ、そうですか?。なら良かった・・。」
「ところで沙紀さんはここを一人で切り盛りしているのですか?。さきほどから仕事をされている方が見えないのですが。」
「いえ、いないことは無いのですが、ほとんど私が動かしているような感じですわ。
ここは前は父が運営していたのですが、一昨年亡くなってそれからずっとです。」
「結構大変じゃないですか?。世話とか・・。」
「まあ私はここにくる前、保母の仕事をしていたので、子供をあやすことには慣れています。ただ・・。」
「ただ、ただなんです?。」
「父がやっていたころは結構ここも繁盛というか・・それなりに上手くいっていたんです。
でも全てボランティアでまかなっていましたし、経済的には一杯一杯で・・。
それでも父は優しい性格でしたから、いろんなところから孤児を受け取ってはその世話に頑張っていたんです。」
「ふむ、それで?。」
「でも運命というのは非情で、そのうち経営が上手くいかなくなって、一時はここを買い取るという話もでる始末・・。父はいつもその話が来る度に断っていたのですがあるとき
上手い話に乗せられて、借金をする羽目になってしまったんです・・。父は必死に返そうとしたんですが・・。」
「亡くなられてしまった・・そういうわけですか・・。」
「はい・・。私一人ではもうどうしようもなくていろんなつてを探してはお金を借りているのですが、もはや限界な状況で・・。今日貴方にお会いしたのもお金を借りる話をした帰りことだったんです。」
「そうでしたか・・。」
「ご、ごめんなさい。まだ知り合って間もないうちからこんな話をしてしまって・・。」
「いえ、気にしないでください。」
若宮は思った。この女性を何とかして助けて上げられないかと・・。俺に出来ることといえば食うことと戦うことぐらいか・・。
 
「それでは今日はこの辺で失礼します。」
「ほんとうにすみませんでした。変なポ話を聞かせたようで・・。」
「いいえ、本当に気にしないでください。それではまた・・。」
「はい!!、またお会いしましょう・・。」
 
若宮は沙紀と別れたあと、ある決心をした。
(俺がなんとかしてやる!!、なんとかな!!)
 
その後、若宮は伝説のフードファイターとして語り継がれることとなるが、まだ誰もそれを知らない時期のことだった・・。
 
TO BE CONTINUED・・・