「貴方が私にくれたもの」
 

 
時は西暦2002年、2月14日。
折りしも、この日は聖バレンタインデー。女の子にとってとても大事な日。
 
 
その日の朝、校門で石津は新井木と会った。
「やっほー!、もえりん。おはよー!。」
「おは・・よう、いさみちゃん・・。」
「うーん元気ないなあ、どうかした?。」
新井木の言葉に石津は黙って顔を赤らめた。・・といっても彼女と一緒にいる人にしか
分からない程度ではあったが。
決意したのか、石津は少しずつ語り始めた。
それから数分後・・・。
 
 
 
「ふーん、来須先輩にチョコを渡したいとな・・ふんふん。」
「・・いつ・・も、親切にし・・てもらっ・てるから。」
「ふーん、へえ、ほー?。」
 
新井木は石津の顔を一通り眺めたあと尋ねた。
「もしかして、もえりん。来須先輩のことスキなの?。」
「・・・(こくん)。」
石津は黙って頷いた。
 
新井木は数秒考えたあと、何か思い付いたように手を叩いた。
「よっし、じゃあボクが協力してあげるよ!。ボクも来須先輩スキだけど・・、他ならぬもえりんの為だもんね。」
 
それからの新井木の行動は素早かった。
午前の授業が終わるとすぐに1組の教室へ行き、来須の机に石津が書いたラブレターを
忍ばせ、さも何もなかったかのごとく振るまいながら石津とお昼を食べに行った。
そして放課後・・・。
 
 
来須は自分の机に入っていたラブレターの差出し人が石津だと知るやいなや、すぐに
中身を読んだ。
 
『校舎裏で待ってます   石津萌』
 
「・・・・・・。」
来須は無言のままラブレターを懐に入れると校舎裏へ走った。
 
「来須ー、今日の訓練なんだが・・。あれ?、来須?。」
若宮が呼びに来た時にはすでに向かった後だった。
 
 
 
校舎裏でブータと戯れていた石津の前に来須は現れた。
「・・待たせたか?。」
来須のその問いに石津は思いっきり頭を横に振った。
 
 
「・・・あの、これ・・。」
石津はうつむいたまま、来須にチョコを差し出した。
「・・俺にか?。」
「・・うん。」
それから数秒間の沈黙のあと、来須は黙ってチョコを受け取った。
 
 
「今日・・バレン・タインだから・・。」
「・・・ああ。」
それきり言葉は無かった。でも心では通じ合っていた。
 
 
 
一部始終を木陰から見ていた新井木は
「・・良かったね、もえりん・・。」
その時新井木は自分が涙を流していることに気がついた。
「あれっ?、何でボク泣いてるのかな。嬉しいのに、嬉しいはずなのに・・。」
 
ちょうどその場に通りかかった若宮は来須を見つけると呼ぼうとした。
「おお、こんな所にいたのか、おーい、くるっ。」
新井木は慌てて若宮の口をふさいだ。
「おい、新井木何するんだ!。」
「バカ!、今はマズイの!。ほんっとーに鈍感なんだから!。」
「えっ?。」
若宮は新井木に促されてもう1度来須の方を見ると側に石津がいることに気がついた。
 
「・・あ、そういうことか。」
「・・うん、だからそっとしておいて上げて。お願い。」
「それは別に構わないが・・。新井木いいのか?。」
「うん?ボクが何か?。」
「・・いや、お前来須のこと好きだったろ?。」
「・・・いいの、もえりんの為だもん・・。」
言葉ではそういいながら、新井木は声を殺して泣いた。
 
 
「ボクってほんとお人良しだよね・・。」
その時若宮は黙って新井木を抱きしめた。
 
「若宮先輩?。」
「俺じゃ来須の代わりにはならんか?。」
「・・うーん、どうだろ。」
「お前結構元気だな、心配して損したかも・・。」
「えっ、うーん、まあ来須先輩ほどじゃないけど、若宮先輩もスキだよ。」
「”も”ってなんだよ、”も”って・・。」
「たはは・・。」
 
2人して大笑いした。何もかも忘れたかのように。いや忘れる様に無理して・・。
それから数分後・・・。
 
 
「若宮先輩・・、これあげる。」
新井木はポケットからチョコを取り出すと若宮に差し出した。
「ほんとは・・・来須先輩にあげるつもりだったんだけど・・。どうせ無理ってわかってたから。」
「・・・そうか、有難う。」
若宮のその言葉にまた新井木は涙目をした。
「・・おいおい、泣くなよ。」
「・・違うよ、目にゴミが入っただけだい!。」
そうでないことはわかっていたが、若宮は敢えて黙っていた。
 
 
 
 
貴方が私にくれたもの、やっと分かった。
それは天国に一番近いもの。何よりも深い愛の証。
貴方の瞳に見えるから・・・。
 
 
 
               〜終〜